パワハラ6類型別の裁判例

パワハラには6つの類型があることはすでに説明しましたが、今度はその6つの類型がどのように裁判で認められたのかを具体的に検証してみましょう。

※参考文献「おさえておきたいパワハラ裁判例85」
著者:君嶋護男
発行所:労働調査会
発行:平成29年4月20日

「身体的な攻撃」がパワハラ問題となった事件

身体的な攻撃はいわゆる暴力や暴行、傷害に相当するのでパワハラ以前に傷害罪に問われる可能性が高い違法行為です。

パワハラと認定された判例ではどんな行為が身体的な攻撃とみなされているのでしょうか?

ケース1:コンビニ店員暴行恐喝等事件(平成28年12月20日)

事件の概要:コンビニフランチャイズ店に勤務していた原告が被告会社の代表者と店長から長期間にわたり暴行を受けた。

暴行の内容

  • 居酒屋で店長の持っていたタバコの火が鼻に押しつけられる(2回)。
  • カラオケに行って酒を飲まないことを理由にマイクで10回以上殴られる。
  • 仕事の手順が悪い、仕事が遅いという理由で代表者、店長らから竹棒で2回殴られる。
  • 居酒屋に行ったとき代表者から焼き鳥の串で手を刺される。
  • 居酒屋で頭部を灰皿で強打され、階段から突き落とされる。

 上記のような日常的な暴行が平成22年から23年の間に、16回も繰り返されていた。

精神的・経済的ないじめ・パワハラの内容

  • 実際には紛失していない店のお金60万円を弁償させられたり、77万円の借用書を書かせられたりした。
  • 警察沙汰を恐れた代表者が原告に殴られることを承諾する誓約書を書かせる。
  • 原告は従業員の飲み台を代表者や店長に支払うよう強要され、総額は200万円に上る。
  • ひらがなで作成された指示書を交付され侮辱された。
  • コンビニの売れ残り商品を強制的に買わされた。
  • 時間外手当も支給されないうえに休日出勤や残業を強要された。

判決の認定事実

  • 16件の暴行の事実をすべて認めた
  • 経済的・精神的いじめやパワハラについてもほぼすべて認められている

判決内容

  • 代表者と店長は相互に教唆、幇助をしたと考えられるので共同不法行為責任を負う。
  • 治療費約16万円と慰謝料30万円が認められる。
  • 経済的損失約324万円と経済的損失にかかる慰謝料は総額520万円が認められた。

事件の感想

この事件は暴行やパワハラなどの内容を読んでいるだけで気分が悪くなるような事件といえるでしょう。

そもそも会社の代表者はパワハラや暴力行為を止める立場であるはずですが、店長と一緒になって従業員に対して暴行を働きパワハラを行うというのは常軌を逸しています。

数あるパワハラ事件の中でもこれほど長期にわたって暴力やいじめが繰り返され、しかも会社の代表者の手によって行われた事件というのはありません。

被害者は普通の人よりも行動が遅く、仕事の手順も悪かったようなので、その点に腹を立てていじめを繰り返したようです。

しかし、指導する立場の人間が指導もせずにハラスメントをくり返し、さらには経済的にも負担をかけるなどということが許されるわけがありません。

事実関係をほとんど認定し慰謝料も認めた判決は妥当なものであったと確信できます。

 ケース2:派遣会社暴行・退職強要等事件(平成26年1月15日)

事件の概要

金属加工と派遣会社の代表者Aが社員Bに対して仕事でミスをすると罵倒したり殴ったりするようになった。

また、仕事のミスによって会社に損害を与えたとして7,000万円を要求し支払わなければ退職を認めないといった。

その後、会社に迷惑をかけたことを認めさせられ2ヶ月以内に返済する内容の退職願を強制的に書かされ退職。

しかし、その当日に警察に暴力を受けたことを相談し、さらに翌日被害者Bは自殺した。

Bの妻と子供は会社および代表者A,監査役Cに対して損害賠償を請求した。

パワハラの事実と自殺の因果関係

被告人Aの被害者Bに対する日常的な暴言や暴行が認められ、退職強要についても不法行為に当たると認められた。

被告人Cについては日常的な暴力行為があったとは認められない。

Bの自殺7日前に全治12日の暴行を受け、3日前には退職強要事件がありこれらがBに与えた心理的負荷は強かったと判断される。

Bは以前から心理的ストレスを与えられたうえに、暴行と退職強要が短期間に行われたことで、急性ストレス反応を発症し自殺に至ったと認めた。

判決内容

  • 被告会社は被告Aが被害者Bに与えた損害を賠償する責任を負う。
  • 逸失利益約2,655万円、慰謝料2,800万円、弁護士費用492万円を被告人の負担とする。

事件の感想

仕事を失敗した社員に対して上司が叱責するというのは、どこの会社でも行われているでしょう。

しかし社員を自殺に追い込むほどの暴言や暴力は決して認められるものではありません。

また、このケースの特徴として被告人Aの行動が大きく矛盾しているという点も挙げられます。

7,000万円を弁償するまで退職は認めないといっておきながら、最終的には退職を強要しているという点は一般的には理解できない行動です。

会社を代表する者としてはあらゆる面で不適格な人物だったのではないかと推測できます。

ケース3:公立病院医師自殺事件(平成27年3月18日)

事件の概要

  • 被告組合が経営する病院に勤務する整形外科医Aは、患者の介護者として立ち上がってもらうときに、被告の整形外科医長Xにノックするように頭をたたかれて注意された。
  • 手術の際は整形外科医長の被告Yと被告Xの双方から暴言を吐かれるなど、多くの注意を受けていた。
  • Aは指示を受けても「はい、はい」と言いつつも何もせず、病院で眠りそのまま勤務につくことが多くなる。
  • XとYを避けるためパソコンで仕事をして、自分で処理できないような手術もX、Yの補助なしで時間をかけて対処していた。
  • Aは最初の暴行から2ヶ月後に自殺した。
  • Aの両親である被告B、Cは、Aが長時間、不規則な勤務を強いられ精神的負荷の強い業務に従事したことやXとYによるパワハラをくり返し受けたことで自殺したと主張。
  • 原告は慰謝料3,000万円、遺失利益1億6,122万円、弁護士費用1,600万円を請求。
  • なお労災は認定されていて、被告らは遺族補償一時金を受領している。
  • 第一審では自殺とパワハラの因果関係が求められ総額9,841万円の支払いが命じられたが、双方とも不服として控訴する。

控訴審判決の内容

  • 1ヶ月の時間外労働時間が最大で205時間に及ぶなど過重労働は明らかだと認め、XとYのパワハラについても社会通念上の叱責や指導の範囲を超えているとして、X・Yのパワハラ行為を認めた。
  • XとYのパワハラ行為とAの疾病、自殺との因果関係も認められる。
  • 被告の組合については新人医師の労働環境整備がなかったうえAの勤務時間やX,Yとの関係なども含めた勤務状況を把握したうえで、休養を与える、事務負担を軽減する等Aの心理的負荷の軽減を図るべきであった。それがあれば自殺を防止できる可能性があった。
  • したがって組合には賠償責任があるが、公務員であるXとYの責任は問わない。
  • 第一審ではAの赴任から自殺までの期間の短さや、自らカウンセリングを受けていない点、母親への過度な依存、精神の脆弱さから過失相殺が認められていたが、控訴審ではそれらは認められず、死亡慰謝料2,500万円、逸失利益1億98万円、葬儀費用150万円が認められた。

事件の感想

暴力行為によるパワハラとしては頭をノックするようにたたいたという程度なので、それほどひどい暴力とはいえません。

しかしXとYの発言の中に「田舎の病院と思ってナメてるのか」「そんな仕事ぶりでは給料に値しない」「両親に連絡しようか」といった暴言があります。

暴力と暴言が組み合わさることで、精神的に追い詰められパワハラによる被害が大きくなるということがはっきりわかるケースです。

Aの実家は父親が開業医で、将来はAが後を継ぐ可能性が高かったようなので、そうした関係を知って親を持ち出すというのはAにとってはかなりのプレッシャーと考えられます。

赴任前の大学病院ではとくに問題なく勤めていたので、組合病院に赴任後の影響で自殺したというのは間違いないでしょう。

それにしても病院側が早く気づいて適切な対処をしていれば自殺は未然に防ぐことができた可能生が高いと考えると、憤りを感じる事件です。

ケース4:飲食店店長パワハラ自殺事件(平成26年11月4日)

事件の概要

  • Aは被告会社が運営する飲食店の正社員で、入社3年目で乙店の店長、その後丙店の店長になり、毎月200時間前後の時間外労働をしていた。
  • Aの上司である被告YはAがミスをすると罵声を浴びせながら尻、頭、頬などを叩き、頭をしゃもじでなぐるなどした
  • 朝礼でAが感想を言えないときには「馬鹿野郎早く言え」と言ってAを叩いた。
  • エリアマネージャーに昇格したYは発注ミスや仕込みをしていないことを理由に休日に店舗に呼び出し仕事をさせた。
  • YはAの交際相手との関係についても口を出し「別れたほうがいい」「携帯番号を教えるな」などといい、いうことを聞かないと服にライターで火をつけたり暴力を奮ったりした。
  • Aは店長に就任後1年経過してから自殺した。
  • Aの両親(原告B、C)は、Aの自殺が過重な長時間労働とYのパワハラが原因であるとして、Yに対して不法行為、被告会社とその取締役Zに対しては安全配慮義務違反と使用者責任に基づいて、以下の請求をした。
     逸失利益4,588万円、慰謝料4,000万円等合計7,309万円
  • なお労働基準監督署長は業務上災害と認定し遺族補償一時金、遺族特別支給金、葬祭料を支給している。

判決の内容

  • パワハラの有無については、Yの恒常的な限度を超えた暴言、暴力、嫌がらせ、労働時間外での拘束、プライベートへの干渉など業務とは関係のないパワハラを行っておりAについて生じた損害について不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
  • 長時間労働およびパワハラと自殺の因果関係について、被告らは自殺の原因を金銭問題、極度の劣等感、女性問題、父親との確執、薬物使用の疑いとしている。
  • しかし被告らが主張する事実は認められず、自殺の原因は長時間労働とパワハラらであると認められた。
  • 被告会社の安全配慮義務違反と使用者責任についても次の理由から認められている。
    ○売上報告書が各店舗から毎日送信されているため、労務担当者はAの長時間労働について認識が可能だった。
    ○パワハラの当事者であるYはAに対する指揮命令権を有しているので、会社はYのパワハラによりAが心身の健康を損なうことがないように注意する義務を怠ってたことになる。
  • 被告会社の取締役Zの損害賠償責任についても、以下の理由で求められた。
    ○取締役Zは社員の労働時間を認識することは容易で、被告Yの朝礼での暴行についても認識していたのだからYの行き過ぎた指導監督についても知り得た。
    ○店長の長時間労働は被告会社においては一般的であったこと、Yは自分が受けた経験がある指導をしていたこと、エリアマネージャーになっても指導監督に関する研修もされていなかった。
    ○これにより被告会社は業務遂行を最優先にし、社員の長時間労働、パワハラ防止に対しては何も対策も講じていなかったことがわかる。
  • 判決では葬儀費用150万円、逸失利益4,588万円、慰謝料2,600万円、弁護士費用520万円か認めっられた。なお、原告らの慰謝料や過失相殺は認められず、労災保険による金額は控除された。

事件の感想

この事件では自殺したAさんだけでなく殆どの従業員が同様の職場環境にあり、長時間労働やパワハラまがいの暴言、暴力にさらされていたと容易に想像することができます。

被告のYでさえも過去に自分が同じような暴力を受けていたことから、同様にパワハラによって指導をしていたようです。

つまりこうしたことが慢性的に長期間に渡って行われていたのは、会社そのものの体質であって、最終的には代表者が大きな責を追うことになります。

確かにパワハラによって業績が一時的に上昇することは事実ですが、長期的な目で見れば社員が萎縮し労働意欲もわかなくなり、それが社員と接した顧客にも伝わってしまい、最終的には経営に大きな影響が出ることは間違いありません。

経営者はパワハラがもたらすマイナス面をもっとよく認識する必要があるでしょう。

 ケース5:神社神職暴行退職強要事件(平成27年11月11日)

事件の概要

  • 被告B神社に勤務する原告Aは同じ系列のC神社の被告Y(Aのいとこ)から指導を受けた際にみぞおちを殴打され、顔面を平手で殴られるなどの暴行を受けた。
  • 原告は被害状況を警察に通報したうえで、被告Yに対して継続的な暴行・脅迫、暴言、坊主頭の強制、寮への住居侵入、時間外手当不払いを認め刑事告発と民事訴訟回避のための嘆願書の提出を求めた。
  • 原告はさらにYに対して暴行と継続的なパワハラを理由に500万円の損害賠償とパワハラの中止を求めたが、Yはパワハラを否定し原告Aに退職を求めた。
  • 神社の禰宜(ねぎ)は原告Aに対して神社での書類整理、清掃などの業務怠慢や不適切な挨拶などを理由に厳重注意をし、被告Yも同様の理由によりAに対して書面で厳重注意後、原告を解職した。
  • 原告はこれに対して、Yの継続的な暴力、脅迫、被害届提出の報復としての解雇により精神的苦痛を受けたとして慰謝料600万円の請求。
  • 神社に対して雇用契約上の権利を有することの確認、解職後の賃金の支払い、減額された差額賃金、時間外割増賃金の支払いを請求した。

判決の内容

  • 被告Yのパワハラによる不法行為の成否については認められ、神社に対して損害額は慰謝料100万円、弁護士費用10万円が下記の理由により認められた。その理由は以下のとおり。
    ○被告YはAに対して2回にわたる坊主頭を強要、多数の暴行や人間性を否定する暴言を浴びせた。
    ○これらは指導方法としての許容範囲を超えているため原告に対する不法行為が成立する。
  • 本件のポイントのひとつに神社での労働は労働基準法の対象になるのかという問題があったが、それについても以下の理由で認められている。
    ○原告は被告神社により時間的場所的に拘束され、業務内容の指導を受け神社の業務に従事させられている。
    ○神社は原告に「給与」の名目で毎月一定額の俸給を支給、源泉徴収や社会保険料も控除している。
    ○俸給の金額は基本給と手当だけでも月額20万円で、県の最低賃金を大きく上回る。
    ○以上から神社が被告に支払った俸給は労務提供の対価として支払ったものであり原告は労基法、労契法の労働者に相当する。
  • 神社の原告に対する有効性も下記の理由により認められていない。
    ○原告は業務を適切に遂行できてはいなかったが、著しい能力不足とは認められない。
    ○神社側が原告に対して厳重注意をしたのは警察に被害届を出してからのことであり、解職通知を正当化するためのものであるという疑いがある。
    ○以上のことから原告の解職は解雇権の濫用と判断された。

事件の感想

パワハラ問題が発生する原因には、被害者側の能力不足ということが少なからず関係しているように思えます。

つまり優秀な人物であればパワハラを受ける可能性は低いのではないかと推測できます。

しかし、勘違いしてはいけないのは、会社側は従業員を適切に教育指導する義務があるということです。

パワハラによって暴力的な指導をしてしまっては、社員や従業員に大きな能力不足があったとしてもそれを理由に解雇や処罰などはできないということです。

それがたとえ神社という特殊な場所であっても、一般企業並みに報酬が支払われているのであれば、労働基準法が適用されることになり、不当な解雇は許されません。

このケースでは被告はできの悪い「いとこ」として接していたため、必要以上に横暴になったという可能性があります。

 

 「精神的な攻撃」がパワハラ問題となった事件

精神的な攻撃もパワハラの要素のひとつですが、肉体的な攻撃にくらべるとはっきりとした証拠が残りにくいという問題があります。

そんな中で精神的な攻撃によるパワハラが認定された事件にはどのようなものがあるのでしょうか?

ケース1:岐阜薬科大学不祥事情報提供等事件(平成27年12月10日)

事件の概要

事件の前提として岐阜薬科大学は奨学寄付金に関して新聞報道がされたという事実があります。

原告は薬科大学の准教授A、被告は岐阜薬科大学、岐阜市および学長Bです。

学長は新聞会社に情報を提供した人物が原告Aであると決めつけたうえで学長室に呼び出し詰問をした。

これに対して原告の上司4名が学長に対して是正を求める通知書を送付。

また、岐阜市に対しても学長に対して忠告するよう求めた要求書も発送したが、市は学長の行動は常軌を逸していないと回答。

その後学長は教授総会において原告とその上司4名に対して、大声で責め立てた上威嚇し、自分の正当性を一方的に宣言。

強行的な態度で原告の人権を侵害したとして、原告は岐阜市に対して慰謝料500万円の支払いを求め、大学と学長に連盟での謝罪書面の提示を求めた。

一審判決内容

  • 学園長室での詰問は学長が否定しているうえに、その後原告が問題解決の行動をせず、処分も受けてないことは不自然。
  • 教授総会では通知書や要求書の内容を説明しただけでパワハラには該当しない。
  • 学長が教授総会で要求書などを閲覧させたことも名誉毀損には当たらない。
    以上の理由で一審では原告の請求は棄却されています。

控訴審判決の内容

  • 職場におけるパワハラを同じ職場で働く者に対して職務上の地位や人間関係などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて身体的・精神的苦痛を与えたり職場環境を悪化させたりする行為と認定。
  • 学長は下位の立場にある原告に対し十分な調査もせず、弁明の機会も与えず、十分な根拠のないまま原告が学長を貶めるために噂を流したと決めつけた。
  • さらに教授総会では興奮して大声を上げて恫喝しながら原告に事実無根の容疑を認めるよう強要した。
  • 上記のことから学長は職務上優位な立場を背景にして。学長としての適正な業務の範囲を超えて原告に精神的苦痛を与えたのは明らかでパワハラに該当する。
  • 慰謝料額は100万円とする。

事件の感想

一審判決から一転して原告の逆転勝利となった裁判結果です。

この事件では、学長が原告の准教授が「新聞社に情報提供したのは学長だ」と吹聴したと主張しています。

しかし考えて見ると学長が新聞社に情報提供すれば、責任を問われるのは学長なので、学長が情報提供することは普通に考えてありえないことです。

つまり学長は准教授が本当に噂を吹聴したとは考えていなかったと考えるのが妥当です。

准教授の上司4名が学長批判グループだったため、それを抑え込もうとして准教授に濡れ衣を着せたというのが真相のようです。

また、一審では学長の言い分を一方的に信じた結果の判決となっていますが、弱者の言い分が軽んじられる傾向が裁判でさえもありえるという点に、一抹の不安を感じるのは筆者だけでしょうか?

 

ケース2:倉庫会社社員低評価、侮辱等事件(平成28年7月26日)

ケース1については特殊な事件という印象が強かったのですが、ケース2は社員の低評価や侮辱といったパワハラで、一般的な会社でも起こり得る事件となっています。

事件の概要

原告は被告会社に勤務する社員でしたが、雇用契約当初の評価から引き下げられ、給与や賞与が減額された。

また、長時間労働、上司からの度重なる脅迫、名誉毀損、侮辱などを受け、さらには残業の申告妨害、退職の推奨、責任の押し付けなどのパワハラによって精神疾患を患い休職した。

減額された給与と賞与の差額324万円と慰謝料100万円の請求をしたもの。

判決の内容

・原告の当初の評価「B」は暫定的なものであって、その後毎年見直しをするものであった。その後の原告の勤務状況から評価が「C」に落とされたこと自体は、違法とはいえない。
・原告の在職中の時間外労働時間は、月80時間を超えることは少なく、おおむね40時間から60時間程度に収まっている。長時間労働が恒常的にあったとは認められない。
・長時間労働によって心理的不可や精神疾患を発症させる恐れがあったとは認められない。
・直属の上司による面談においては、注意指導していることは認められるが表現としては不穏当であり業務指導の範疇を超えて原告の人格を否定していると判断される。
・精神疾患を患ったという点についても的確な証拠がないことから認められないため、職場環境配慮義務違反の債務不履行には該当しない。
しかし、上司が業務指導の範疇を超えて原告の人格否定や侮辱を行った事実はパワハラに該当して違法である。そのため被告会社に使用者責任が成立すると認められる。
・慰謝料として25万円、弁護士費用として3万円を認める。

事件の感想

この事件は会社側にとっても会社に勤務する社員にとっても、興味深い判例ということができます。

この事件の原告はいわゆる「だめな社員」で、在職中の2年間の状況は上司の指示には従わず、ずさんな勤務状況、責任回避などがあり、これらがすべて裁判で具体的に明らかにされています。

また、残業に関しても原告が残業手当目的でさほど必要のないような残業もしていたことが伺え、むしろ会社としては残業を抑制しようとしていたことがわかります。

それを原告が「残業を申告するなということか」といって開き直っていた様です。

直属の上司も根気強く説得したようですが、ついに業を煮やして原告を侮辱してしまったというのが現状のようです。

この状況を考えるとむしろ会社側に同情を感じてしまう人が多いのではないでしょうか?

つまり会社にとっていかに能力が低く、無駄な残業をしている社員であっても、相手の人格を否定することはパワハラにつながり、だめな社員であってもさらに慰謝料を支払うような状況になるということです。

パワハラは一方的に立場が上の人間が下の人間に対して行うハラスメントですが、パワハラに対する認識を企業側が社員に徹底しておかないと企業にも責任を問われることになるということがわかるいい例ですね。

 

This article was updated on December 15, 2022