パワハラの定義から予防対策まで

ここ数年で耳にする機会がぐっと増えた『パワハラ』という言葉ですが、

  • これってパワハラになるのかな?

  • パワハラ被害にあってつらい!でもどうすればいいかわからない……

  • パワハラで訴えられたらどうすればいいの?

このような疑問を感じている方は数多く存在します。

そこで本記事では、知っているようで意外と知らないパワハラについて、さまざまな角度から解説していきます!

パワハラ被害に苦しまないために、パワハラで人の心を傷つけないために、パワハラへの知識と理解を深めていきましょう。

具体的な事例も交えてご紹介していきますので、自分の置かれている環境や現状を思い浮かべながら読み進めてみてください。

 

パワハラの定義とは?

パワハラとは、パワーハラスメントの略称です。

  • パワー=権力、力

  • ハラスメント=いじめ、いやがらせ

つまりパワーハラスメントは、「権力を利用したいやがらせ行為」だといえます。

パワハラは上下関係が引き金になりやすい

権力による抑圧や苦痛を伴う言動がパワハラとされるため、人間関係において上下関係が成立する場合にパワハラ被害が生じやすくなります。

  • 例:上司と部下、教師と生徒、コーチと選手など

ここからはパワハラ問題が表面化しやすい“職場のパワハラ”をメインに、パワハラについてさらに深堀りしながら解説を進めていきます。

“職場のパワハラ”の定義

厚生労働省が提示している“職場のパワハラ”の定義をチェックしてみましょう。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

引用:厚生労働省「あかるい職場応援団」

なんとなく難しい表現にも感じますが、ここには3つのポイントが含まれています。

3つのポイントとは、

  • 職場内での優位性(立場や肩書き)を利用していること

  • 業務の適正な範囲を超えていること

  • 精神的・肉体的な苦痛を与えていること

これらの3点は、基準があいまいになりがちな「パワハラの有無」を判断する要素となります。

それぞれのポイントについて、より具体的に解説していきましょう。

 

職場のパワハラ3つの要素

厚生労働省は平成29年、パワハラ防止策の強化を目的として、労使関係者らでつくる「職場のパワーハラスメントについての検討会」を設立しました。

そこでまとめられたのが、パワハラの判断基準となる先ほどの3要素です。

1.職場内での優位性(立場や肩書き)の利用

職場での優位性とは、パワハラを受ける被害者が加害者に対し、抵抗や拒絶ができないような関係性であることを指します。

イメージしやすいのは、立場や肩書きが上である上司から部下へのパワハラですよね。

しかし、それだけではありません。

  • 同僚や部下からの集団でのパワハラ

  • 加害者がいなければ成り立たない業務での非協力

などもパワハラの要素に含まれます。「職場の優位性」とは職務上の地位や役職に限ったものではなく、人間関係や専門知識、経験値なども含まれる点を理解しておきましょう。

2.業務の適正な範囲を超えていること

2つ目のポイントは「業務の適正な範囲」についてです。

  • 明らかに業務とは関係ない、必要性がない職務を押し付ける

  • 業務の遂行を妨害する不適当な行為

  • 職務から外れるような業務を何度も何度も強要する

など、業務上の“適正な範囲”から逸脱した場合はパワハラとして判断されます。

ただし注意したいのは、「業務上の適正な範囲」の判断基準が明確ではないということ。

社会的通念や会社の社風に左右されやすい要素でもあるため、知らないうちに加害者にならないよう気を付けなければなりません。

「部下への指導=パワハラ」ではない!

“業務上の適正な範囲”には、上司から部下への指導ももちろん含まれます。

仮に指導を受けた部下が指導内容を不満に感じたとしても、業務を遂行する上で必要な指導や教育の一貫であればパワハラにはなりません。

パワハラを恐れるあまり必要な指導さえ行えないような職場環境では、十分なハラスメント対策ができているとは言えないのです。

3.精神的・肉体的な苦痛を与えている/職場環境を妨害している

最後のポイントは、精神的・肉体的な苦痛の有無に関してです。

暴力行為などはもちろん、相手の心を傷つけるような発言もパワハラと判断される要因となります。

具体的には、

  • 暴力によって相手にけがを負わせる

  • 何度も大声で怒鳴る

  • 周囲に見せびらかすように必要な指導をくり返す

  • 人格否定する

このような行動はパワハラとして十分に認定される可能性があります。

直接手をあげなくとも、丸めたポスターやバインダーなどで頭を叩いたり、机を叩きながら大声で怒鳴る行為などもこの要因に該当します。

また、職場全体で特定の人物への無視や社内いじめのような扱いをした場合も、

  • 相手の職場環境を妨害した

  • 就業意欲を著しく低下させた

などとし、パワハラだと判断される可能性があります。

判断には一定の客観性が必要

精神的・肉体的な苦痛を与えたかを判断するには、一定の客観性が必要となります。

「厳しい指導を受けた=精神的苦痛」という単純な公式が成り立つわけではありません。

もし上司の態度や職場環境が精神的に大きな負担となっている場合は、客観的にみても同様の判断をしてもらえるよう、日記やメモなどに残しておくといいでしょう。

 

以上、職場のパワハラを構成する3つの要素についてご紹介してきました。

さらにパワハラには、上記の3つの構成要素を満たす『6つの行為類型』も存在します。

次はこの6類型についてみていきましょう。

 

パワハラの6類型と具体例

厚生労働省はパワハラ行為を明確化するために、職場でのパワハラ行動そのものを以下の6つに分類しています。

  • 身体的な攻撃

  • 精神的な攻撃

  • 人間関係からの切り離し

  • 過大な要求

  • 過小な要求

  • 個の侵害

それぞれのポイントを解説するとともに、イメージしやすいよう実際にパワハラにあたる具体例をご紹介していきます。

※前提として、6類型はすべてのパワハラ行為を網羅しているわけではありません。上記に当てはまらない行為なら問題ない、とは言い切れない点に注意しましょう。

1.身体的な攻撃

もっともイメージしやすいNG行動です。殴る、蹴る、物に当たり散らすなどの攻撃的な行動が該当します。

<「身体的な攻撃」の具体例>

  • 上司が部下の胸ぐらをつかむ

  • 指導中に殴る、足蹴りにする

  • 丸めたポスターやバインダーで叩く

  • ゴミを投げつける

  • 蹴り上げたイスが体にぶつかる

2.精神的な攻撃

先ほどの身体的な攻撃とはちがい、直接ケガを負わせずに精神的に追い詰めるような行動全般がこれに当てはまります。

暴言や人格否定などの言葉の暴力はもちろん、社内での立場がゆらぐような行為も精神的な攻撃に含まれます。

<「精神的な攻撃」の具体例>

  • 同僚や部下の目の前で必要以上に罵倒される

  • 「役立たず」「給料泥棒」「変わりはいくらでもいる」など、人格を否定する発言をくり返す

  • 会社全体宛のメールで名指しで非難される

  • 社員の前で土下座させられる

  • 部下が特定の上司からの指示をくり返し無視する、人格を否定する

3.人間関係からの切り離し

精神的な攻撃にも通じますが、本人の人間関係そのものを支配するような行動がこれに該当します。

会社内での扱いはもちろん、社外での交流を妨害するような行動も含まれます。

<「人間関係からの切り離し」の具体例>

  • 1人だけ別室にうつるよう強要される

  • 強制的に自宅待機させられる

  • 長時間にわたって別室での作業ばかり指示される

  • 会社全体の送別会や歓迎会に呼ばれない

  • 社内での連絡事項を伝えない、仲間外れにする

4.過大な要求

相手の能力をわかったうえで、それを明らかに超えるような業務を押し付けることもパワハラに該当します。

また、本来は上司がやるべき責務を部下に負わせたうえで、責任をなすりつける行為もこれに含まれます。

<「過大な要求」の具体例>

  • 明らかに達成困難なノルマを課す

  • 明らかにひとりでは終わらない量の残業を押し付ける

  • 新人社員に対して指導もしないまま、責任を負わせる

  • 過酷な環境で業務に直結しない作業ばかりを命じる

  • 肩書きにそぐわない重責の仕事ばかりを押し付ける

5.過小な要求

先ほどの過大な要求とは対極に、本来の職務や能力に見合わないような単純な作業しか任されないなどもパワハラに該当します。

過小な職務しか与えられないことを本人が苦痛に感じているかが重要なポイントとなります。

<「過小な要求」の具体例>

  • 1日中コピーやお茶くみばかりさせられる

  • 掃除や雑用をすべて押し付けられる

  • プロジェクトから外される、そもそも参加させてもらえない

  • 明らかに社内評価が低すぎる

  • 本来の職務とは関係ない仕事しかさせてもらえない

6.個の侵害

個の侵害とは、プライベートな部分にまで必要に踏み込まれ続けることを指します。

思想や思考を強要されたり、政治・宗教を強制されることもパワハラに該当します。

また、恋愛や家庭事情が関与する内容である場合、セクハラに当たるケースもあるため注意が必要です。

<「個の侵害」の具体例>

  • 交際相手や過去の恋愛について執拗に問い詰められる

  • 家族に対する文句を言われる、バカにされる

  • 私物を写真で撮影される、細かく管理される

  • 業務終了後もLINEやメールで個別に連絡がくる

  • 政治・宗教観念を押し付けられる・強要される

 

パワハラってどこから?ボーダーラインと裁判事例

ここまで、パワハラを定義づける3要素と6つの行為類型について解説してきました。

しかし、上記に当てはまればすべてがパワハラに該当するのか?といわれると、そうとも言い切れません。

法的にパワハラがあったと認定されるのはどこからなのか?厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」に公表されている実際の裁判事例をもとに、パワハラの境界線(ボーダーライン)について考えていきましょう。

裁判事例①:パワハラによる損害賠償請求が認められた事例

1つ目の事例は、従業員3名が上司からのパワハラ被害を訴え、損害賠償請求が認められたケースについてです。

被害者と加害者の関係性

消費者金融会社に勤務していた従業員3名が、上司・会社を相手に損害賠償請求を起こしました。

被害を訴えた3名のうち、1名は上司からのパワハラによって抑うつ状態を発症したとし、慰謝料や治療費についても請求しました。

パワハラ行為と認定された具体的な行動

  • 冬場にもかかわらず、従業員ABに対して執拗に扇風機の風を当て続けた

  • 従業員Aを叱責したうえで「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません。」という始末書を書かせた

  • 従業員Bに対し「給料泥棒」「責任を取れ」などと叱責し、「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした。」という文言を含めた始末書を提出させた

  • 従業員Cに対し、背中を殴打する、叱責しながら膝を蹴る、配偶者を否定する発言をするなどの暴言・暴行をあたえた

裁判の結果

上記の行為をすべてパワハラ行為(不法行為)と認定し、上司および会社に対し3名それぞれに慰謝料の支払いを命じました。

従業員Aについては、上司からのパワハラ行為と抑うつ状態による休業との因果関係も認められました。

裁判事例②:被害を訴えた内容が部分的に認められた事例

被害者と加害者の関係性

上司によるパワハラが原因で精神疾患を発症。会社を休職し、そのまま自然退職扱いになったとして提訴しました。

損害賠償にくわえ、休職の原因は会社側に責任があり、現在も従業員の地位にあるとして自然退職後の賃金の支払いを求めました。

パワハラ行為と認定された具体的な行動

  • 「酒は飲めない」と断った従業員に対し執拗に強要。その後、従業員が嘔吐するも「酒は吐けば飲める」と発言した。

  • 前日の飲酒で体調不良を訴えたにもかかわらず、運転を強要した。

  • 深夜、精神的苦痛を与える内容の留守電やメールを残した。

  • 従業員が必要なミーティングを行わなかったことに激怒した上司は、夏季休暇中の従業員の携帯電話に「ぶっ殺すぞ」などの留守電を残した。

不法行為ではないと認定された具体的な事例

上記の行為はいずれも不法行為(パワハラ行為)として認定されました。

業務時間外の行為もありますが、業務と関連していることから、会社の使用者責任も認められています。

一方で、パワハラと精神疾患に因果関係があるとは認められませんでした(パワハラ以外にも仕事上のミスなど、精神的負荷のかかる状況があったため)。

また、

  • 精神疾患とパワハラに因果関係がないこと

  • 従業員が休職命令に対して異議を唱えなかったこと

  • 会社からの復職案内に対し、所定の手続きや相談等の行動を起こさなかったこと

これらを理由として、会社側の休職命令・自然退職扱いは正当であるとされました。

裁判の結果

パワハラ行為として認定された行為に対し、150万円の慰謝料の支払いを上司・会社に命じました。

しかし、自然退職扱いになった点に対しては不当な点はないとし、自然退職後の賃金請求は退けられました。

裁判事例③:パワハラと認められなかった事例

3つ目の事例は、上司(本件では校長・教頭)からのパワハラ行為がすべて棄却されたケースです。

被害者と加害者の関係性

県立高校の教諭が3年間にわたって、校長・教頭から嫌がらせや暴行を受けたと提訴しました。

これが原因で精神疾患を発症したうえ、疾患に対する配慮が足りなかったために症状が悪化したとし、校長・教頭および県に対して損害賠償を求めました。

パワハラ行為だと主張された行為

  • 嫌がらせ:教諭は頻繁に校長室へ呼び出される行為が嫌がらせに当たると主張した

  • 暴力:校長・教頭が教諭の業務命令違反に基づく処分告知の際、教諭の腕をつかむという暴力行為に及んだと主張した

  • 教諭は「心因反応・抑うつ状態」と診断されたが、その後も精神疾患への配慮がなく、安全義務違反に当たると主張した

パワハラ行為だと認定されなかった理由

  • 校長室への呼び出しは教諭が指示された書類を提出しなかったことや、職務命令違反行為があったなど、職務上指導が必要だったため

  • 呼び出し行為は月に数回程度、無理強いした様子もないとし、教諭に過度の心理的負担を負わせるものとはいえないと判断した

  • 腕をつかむという暴行行為は、教諭が処分告知を妨害しようとしたため、これを阻止する目的で最低限度の行動を取っただけだと判断された

  • 校長・教頭は教諭に対して相当程度の配慮を行っており、精神疾患を悪化させるような安全配慮義務違反はないとした

裁判の結果

一審では校長・教頭らに精神疾患に配慮する義務違反があったとして、33万円の支払いを県に命じました。

しかし控訴審では、一審の判決を覆し、教諭の請求をすべて棄却しました。つまり、すべての行為がパワハラとは認定されませんでした。

 

パワハラと「厳しい指導」の境界線

上記の事例にもある通り、パワハラと「厳しい指導・教育」のボーダーラインは非常に難しいポイントです。

上司からすれば指導のつもりが、指導される側は心理的な負担を感じてしまっているケースも。

パワハラ・厳しい指導や教育の具体例

先ほどあげた3つの裁判事例をもとに、パワハラと指導・教育の判断基準について考えていきましょう。

始末書・反省文を書かせる行為

指導の一環として、上司が部下に反省文や始末書、報告書などの書類の提出を求めることはよくあります。

この場合、一般的な手法に基づいて書類を作成させる分にはパワハラ行為には当たりません。

しかし書類に書かせる内容が不適切であったり、提出命令の方法などが過剰である場合は、パワハラに該当する可能性があります。

裁判事例①では、「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません」や「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした」などの文言を書かせた点がパワハラに該当すると判断されています。

指導のための呼び出し・頻繁な面談

指導を目的とし、会議室や個室に呼び出したうえで面談をする行為だけではパワハラには当たらないケースがほとんどです。

しかし、長時間にわたって退室を認めなかったり、指導内容を無理やり承諾させるなどの強要行為があった場合はパワハラに当たる可能性があります。

裁判事例③では、くり返し校長室へ呼び出された行為そのものをパワハラだと訴えた原告に対し、職務上の指導であってパワハラとは判断されませんでした。

暴言・暴力

部下の指導に熱が入るあまり、感情的な言動をぶつけてしまうこともあるでしょう。

しかし、こういった暴言や暴力は精神的な苦痛を与えたと判断されやすく、パワハラ行為に該当するリスクが高いです。

これには本人に口頭で直接ぶつけることはもちろん、メールや留守番電話にメッセージを残す行為も含まれます。

裁判事例②では、深夜や休暇中の留守電・メールに残った内容についても、業務に関連する不当行為としてパワハラ認定されました。

パワハラと指導の判断基準

パワハラか指導か、境界線で迷ったら

  • 業務上必要なことか

  • 部下にとって必要なことか

  • 業務の範疇を超えていないか

これらのポイントを注意深く意識するようにしましょう。

指導が必要な場合は細やかな配慮をしたうえで、感情的な言葉や高圧的な態度にならないよう努めることが重要です。

また、明らかに指導の範疇を逸脱した行為を受けてしまっても、感情的になってやり返すのはNG

証拠として利用できるようしっかりと記録に残りたり、然るべき相談機関への申し出も検討しましょう(具体的な対処法については後述します)。

 

This article was updated on December 15, 2022