パワハラ以外のハラスメントが争われた判例

裁判の判例にはパワハラだけではなくパワハラ以外のハラスメントの不法行為が争われたケースもあります。

ハラスメントは複合的に行われることが多いので、パワハラ以外にもセクハラやマタハラが同時に行われているケースもあるようです。

パワハラ以外ではどのような判例があるのかを見てみましょう。

ケース1:妊婦セクハラ発言懲戒処分事件
(平成23年1月18日)

事件の概要

  • 被告は電気機械器具の割賦販売、信用保証を営む会社で、原告は被告会社に主任として勤務している。
  • 原告はある日妊娠中の女性従業員Aのミスを大声で叱責したところ、Aは泣き出してそのまま帰宅。
  • その後原告はAと他の女性従業員との会話に割り込み、「腹ボテ」「胸が大きくなった」などの発言をした。
  • 原告は事情聴取されたときに「腹ボテ」は原告の出身地では妊娠した女性に対して普通に使う言葉であって、一連の発言に対してセクハラと指摘されたことに納得がいかなかった。
  • 後日、原告は面談の際に本件の発言をめぐる処理は異動に拒否に対する嫌がらせではないかと質問、その後原告はAに対する発言がセクハラに該当するとしてけん責処分を受けた。
  • 原告は本件はセクハラには当たらないとしてけん責処分の無効、名誉棄損による慰謝料250万円を被告に請求した。

判決の内容

  • 原告の本件発言はAに対する性的な嫌がらせをする意図や故意を有していたと認めるまでには至らず、原告の主観ではAが妊娠している事実や身体の変化を指摘したにすぎない。
  • しかし、原告は女性に対して厳しい対応をする人であり、高圧的という評価を受けていたこと、特にAに対しては業務上のミスについて厳しい口調で注意をしてAがトイレに逃げ込んだという出来事があった。
  • そのため、原告に嫌がらせの意図がなくても本件発言を受けた人が性的な不快感を覚えることは当然であり、原告も自らの不用意な発言で相手に不快感を与えないように配慮する義務があった。
  • それにもかかわらず原告はAに対して配慮を欠いた発言をして性的な不快感を覚えさせたのであるから、本件の発言は相手の意に反する性的な言動、セクシャルハラスメントに該当する。
  • 原告の故意によるセクハラとまでは認定できず、違法性は軽微である。ただし、被告の原告に対する処分は懲戒処分の中でも最も軽いけん責処分であり、懲戒権の乱用には当たらない。

事件の感想

このケースではセクハラに該当するとして会社から懲戒処分を受けた社員が、処分の取り消しや慰謝料の請求を求めた事件です。

ハラスメントを受けた側が原告となって訴訟を申し立てるケースが多い中にあっては珍しいケースと言えるでしょう。

しかし、パワハラ防止対策を企業側が積極的に実施するほど、ハラスメントの加害者にされた上司が不満に思うケースも増えるのは間違いありません。

企業側はハラスメントの被害者だけではなく加害者に対しても十分納得できるよう説明する義務があると言えるでしょう。

このケースのポイントはたとえ上司にセクハラの意図がなかった場合でも、部下に対してセクハラの誤解を受けるような言動をすれば、相手によっては十分セクハラ行為を受けたという印象を与えてしまうという点です。

ハラスメント行為の共通する特徴には「一方的」というキーワードがあります。

このケースでも原告が自分の出身地でのみ一般的な言葉を使ったことは、一方的に自分の価値観を押し付けたことにもつながります。

こうした一方的な行為がパワハラやセクハラを生み出すきっかけとなるので十分に注意しましょう。

ケース2:生協病院妊娠降格事件
(平成27年1月17日)

事件の概要

この事件は上告審(最高裁判所)まで争われましたが、最終的に差戻審で決着がついたいわゆるマタハラ事件です。

・医療介護事業を営む協同組合が被告で、協同組合に勤務していた理学療法士が原告。
・原告は採用10年でリハビリテーション科の副主任を命じられ、育休からの復帰後業務移管に伴いFステーションに副主任として配属された。
・原告はさらに4年後大西の妊娠に伴い軽易業務転換請求をし、病院リハビリ業務にうつったが、I主任がいるため副主任を免除された(措置1)。
・原告はその後産休に続いて育休を取ったが、産休までの間に副主任免除について異議を述べていない。
・被告の協同組合は原告が配置されるなら退職するという理学療法士が2名いる職場があるといった事情から、復帰先が限られたため原告の抗議を受けたが後輩の副主任がいるFステーションに配属した(措置2)。
・原告は措置1が男女雇用機会均等法が禁じている「不利益取扱い」、措置2は産休及び育休の取得を理由とする実質的な降格処分に当たるとして、違法・無効であると主張。
・債務不履行と不法行為を理由に慰謝料100万円、不払い副主任手当等総額175万円を請求した。

第一審判決の内容

・措置1については原告が軽易業務を希望したためリハビリテーション科に異動したが、すでに主任がいたため副主任の必要性がなく、原告の了解を得て行ったものである。
・原告もしぶしぶではあるが同意していたことは明らかなことから、均等法の不利益な取り扱いには該当しない。
・措置2についても原告が職場復帰する際に原告の希望を聞き、復帰先が慎重に検討されたうえで、内定した勤務先にすでに副主任がいたといった事情が考慮されたものである。
・被告は業務遂行・管理運営上、人事配置上の必要性に基づいて裁量権の範囲内で行われたと認められる。妊娠・出産、また育児休業をしたことのみによって、裁量権を逸脱して不利益な取り扱いをしたのとは認められない。
・控訴審も上記理由により公訴棄却となった。

上告審判決内容

・均等法9条3項の規定はこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものである。したがって女性労働者について妊娠・出産・産前産後休業、または軽易業務への転換を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは同行に違反し違法・無効となる。
・女性労働者に対して妊娠中の軽易な業務への転換をきっかけとして降格させる措置は、原則として同行の禁止する取扱いに当たる。
・ただし、労働者がその措置により受ける有利な影響や労働者の意向、事業主による説明内容やその他の経緯に照らして、当該労働者の自由な意思に基づいて降格を承諾した合理的な理由があるときには同行の禁止する扱いには該当しない。
・また、その場合、降格の措置を取らずに軽易な業務への転換をさせた場合、業務運営や人員の適正配置などに支障が出るという事情も必要となる。
・以上の点を本件に当てはめてみると、リハビリ科への移動の前後でどの程度業務が軽減されるのか、主任と副主任の職務内容の実態がはっきりしていないため、原告が措置1によって受けた有利な影響やその程度は明らかではない。
・さらに本件措置によって原告は管理職手当付き9,500円の支給も受けられないという不利な影響を受けている。
・また、原告は職場復帰後も非管理職職員としての勤務を余儀なくされていて、本件措置による降格は一時的ではなく、職場復帰後も副主任としての復帰を予定していない措置と考えられる。
・以上の点から措置の降格については原告の意思に反することであり、原告が自由な意思に基づいて降格を承諾したと認めることはできない。
・もうひとつの要素である降格の措置を取らずに軽易な業務への転換をさせた場合、業務運営や人員の適正配置などに支障が出るという事情も明らかではない。
・以上の点から均等法9条3項の趣旨や目的に実質的に反しないという特段の事情について、審理を尽くす必要があり差戻とする。

差戻審判決内容

・原告はリハビリ科を強く希望しているが、それだけで自由意思に基づく承諾があったと認める合理的な理由とはならない。
・原告はリハビリ科への異動によって副主任の地位を免ぜられることを承諾しているが、承諾が自由意思に基づくものであることの合理的な理由が客観的に存在するとは言えない。
・被告は原告をリハビリ科に異動させたことは、流産のリスクの減少や担当患者の減少などの利益があると認められるが、これは降格による利益とは言えない。そのため均等法に違反していないと認められる特段の事情は存在しない。
・被告が本件措置1において原告から事前の承諾を得た証拠がなく、原告の承諾も自由意思に基づくものだという合理的な理由もない、被告が措置1において十分な検討をしたとも言えず、必要性や理由についての十分な説明もなされていない。
・これらのことから不法行為や債務不履行があると認められ、副主任手当月額9,500円、慰謝料100万円等、総額約175万円の賠償金額とする。

事件の感想

本事件の判決は企業側からするとかなり厳しい判決になるのではないでしょうか。

この判決では被告は原告の希望を聞き入れて復帰先を検討しているにもかかわらず、それが原告の自由意志であることや副主任復帰に重大な支障が生じることなどを証明することができなければ、不法行為となってしまうのです。

基本的にこの事件では病院側に嫌がらせの意図は感じられませんが、結果としてはマタハラを行ったとして慰謝料を支払うことになってしまいました。

企業側としては原則として育児休暇からの復帰には、従前と同じ待遇で復帰させることが必要ということです。

しかし、原告は協調性に問題があるのは、原告が同じ職場に復帰すれば辞職するという職員もいたことや、労働組合が原告の降格撤回のための協力を職場の同僚に求めても拒否されていることからも明らかです。

企業としては従業員の資質や能力などとは全く関係なく、従前と同じ環境を準備しなければいけないことになるので、かなりハードルが高くなるのではないでしょうか。

特に対象者に協調性がなく周囲からの協力も得られない場合は難しい対応を迫られることになります。

 

This article was updated on December 15, 2022