パワハラに関する法律とは?パワハラ防止法について

2019年5月29日、参議院本会議にて「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が可決されました。

これにより、パワハラに対する対策が義務化される『パワハラ防止法』が成立したことになります。同法の条文にて、初めて法律内でパワハラが定義されました。

“パワハラの定義とは?”の項でも触れていますが、「職務上の優位性を背景に、適正な範囲を超えて従業員に精神的、身体的苦痛を与える行為」と明記。

加えて、相談窓口の設置やパワハラへの対処方針を就業規則で定めることなどを企業に義務づけています。

施行開始時期は大企業で2020年4月、中小企業で2022年4月の予定です。

企業が取り組むべきパワハラ予防対策

職場内で一度でもパワハラ問題が生じてしまうと、問題への対策や解決に多くの時間や労力が必要となります。

そうならないためにも、企業や労働組合が予防対策をしっかりと取っておかなければなりません。

2020年以降のパワハラ対策の義務化も視野にいれ、企業が取り組むべきパワハラ予防対策をチェックしていきましょう。

パワハラ対策の基本構造

パワハラ対策の枠組みを構築するには、以下の7つのステップが推奨されています。
1. トップのメッセージ
2. ルールを決める
3. 実態を把握する
4. 教育する
5. 周知する(ここまでが「予防」への取り組み)
6. 相談や解決の場の設置
7. 再発防止のための取り組み(ここまでが「解決」への取り組み)

上記のうち1~5までは「5つの予防対策」としてすでにくわしい内容を解説しているので、6と7についてご紹介しましょう。

相談や解決の場の設置

企業内や第三者機関に相談窓口を設置するとともに、職場の対応責任者を任命しましょう。
相談窓口では秘密が守られることや、不利益な扱いを受けることがないことなどを徹底し、明確にすることが重要です。
また、パワハラ被害に悩んだ従業員ができるだけ初期の段階で相談できるよう、気軽にSOSを発信できる仕組み作りがポイントとなります。

相談窓口の種類

〇相談窓口設置場所の例(内部窓口)
・管理職や従業員をパワーハラスメント相談員として選任して相談対応
・人事労務担当部門
・コンプライアンス担当部門/監査部門/人権(啓発)部門/法務部門
・社内の診察機関、産業医、カウンセラー
・労働組合

〇相談窓口設置場所の例(外部窓口)
・弁護士や社会保険労務士の事務所
・ハラスメント対策のコンサルティング会社
・メンタルヘルス、健康相談、ハラスメントなど相談窓口の代行を専門に行っている企業

相談窓口の設置には大きく分けて内部と外部があります。内部相談窓口にはその企業の風土のようなものを理解してもらえるので、わかってもらいやすいというメリットがあります。

反対に同じ社内の上司のパワハラを相談するので、情報が漏洩するのではないかという不安を完全に消すことができないというデメリットもあります。

外部に設置する窓口は内部窓口のメリットとデメリットがまったく反対になります。

その企業にあった設置窓口を選択すれば問題ありませんが、必ずどちらかというわけではありません。

人員や予算に余裕がある企業であれば、内部と外部のどちらにも設置するという選択肢もあります。

相談担当者の役割と流れ

〇相談担当者の役割
相談担当者には相談の受付と事実確認という2つの役割がありますが、企業の事情によって一人で2つの役割を担当する場合と、別々の担当者を置く場合に分かれるでしょう。

どちらでも構いませんが、担当者を2名にした場合は情報の引き継ぎは正確に行うことに注意しましょう。

また、相談担当者に十分なスキルがなければ、せっかく設置しても利用者がいないということも考えられます。事前に専門家などからの研修を受けることも考慮しましょう。

〇相談窓口対応の流れ
1. 1次対応
2. 事実関係の確認
3. 行為者・相談者へとるべき措置を検討
4. 行為者・相談者へのフォロー
5. 再発防止策の検討
次に上記の流れをくわしく説明します。

相談窓口業務の詳細

〇1次対応での注意点
・相談者の秘密が守られることや不利益な取り扱いを受けないことを明確にする。
・相談窓口・担当者を明示、相談方法は、面談に限定しない。電話や手紙・電子メール等でも可能な体制にする。
・相談者や調査協力者が不利益な取扱いを受けることがないようにして、それを従業員に周知しておく。
・プライバシーが確保できる部屋を準備する。

〇事実関係の確認
・相談者の了解を得たうえで、行為者や第三者に事実確認を行う。
・行為者に対して事実確認を行う際は、中立的な立場で行為者の話を聴く。また、相談者の認識に誤解があった場合にも、報復などは厳禁であることを伝える。
・相談者と相手の意見が一致しない場合には、同席者や目撃者は、同様のパワハラを受けている者に事実関係の調査を行う。
・第三者に話を聞くと問題が外部に漏れやすくなるので、守秘義務について十分理解してもらい、事実確認を行う人数はできるだけ絞る。
・相談者、行為者、第三者の意見が一致するとは限らないので、それぞれの主張を合理的に判断する情報と考えるようにする。

〇行為者・相談者へのとるべき措置

■対応策の検討
会社としての対応を以下の要素を考慮しながら検討する。
・相談の被害の状況(身体的、精神的な被害の度合い)
・相談者、行為者、第三者への事実確認の結果
・該当行為の程度(質)や頻度(量)
・相談者および行為者のそれぞれの行動や発言に問題があったと考えられる点
・パワハラについての就業規則の規定内容
・パワハラの裁判例

■事実確認および評価の結果
以下の3パターンが考えられます。
・パワハラがあったと判断できる場合
・パワハラがあったと断言できないが、事態が悪化する可能性があり、何らかの対応が必要な場合
・パワーハラスメントの事実が確認・評価できない場合
上記の場合によって、以下の対応策が考えられます。
・行為者または相談者への指導
・行為者から相談者への謝罪
・人事異動、懲戒処分

パワハラが認められた場合や確認できなかった場合は、ある意味では対処法は簡単ですが、パワハラがあると断言できないけれども今後の対応が必要な場合には次の点に注意しましょう。

・行為者の行動や発言(相談者も含む)にどのような問題があったのか、どうするべきであったのかを明確にすること。
・行動や発言にどのような問題があったのか具体的に明確にし、行為者に改善を促すことで、事態が悪化する前にすみやかに解決につなげる。

〇行為者・相談者へのフォローアップ
担当者はパワハラ調査の結果だけではなく以下の点も、フォローしておきましょう。
・相談者・行為者の双方に対して、会社として取り組んだことを伝える。
・行為者の行動や発言にどのような問題があったかを伝えて、同様の問題が起こらないように継続的なフォローアップをする。
・同じことを繰り返す行為者の上長は、行為者の言動に目を配り、タイムリーに適切なアドバイスを行うとともに、定期的な面談をする。
・相談者にも仕事のやり方などに問題があった場合には、問題点を伝えることで、今後同様の問題が起こらないようにする。

再発防止のための取り組み

仮にパワハラ事案が発生してしまった場合を見据え、再発防止のための取り組みも明確化しておきましょう。

とはいえ、重要なのはあくまで予防。予防対策に真摯に取り組むことこそが最大の再発防止策につながります。

定期的な実態把握がパワハラ予防のポイント

パワハラへの予防対策は、基本部分の構築が済めば終わり、というわけではありません。むしろ、基本が構築できてからどう向き合うかが重要です。

パワハラは人間関係から生じる問題であり、従業員の雇用や人事によってつねに流動的に変化していきます。

パワハラのリスクを早期に発見し、対策を取れるよう定期的な実態把握に努めましょう。

アンケート調査や個人面談など、従業員が自分の働く環境について意見を発信できる機会を設けることがポイントです。

 

This article was updated on December 15, 2022